「うみ、いきたい?」
これは二歳半の息子が、自分が海に行きたいときに口にする言葉で、「いきたい!」とこっちが返してくれることを前提に期待に満ちた表情で発せられるもの。冬の間にお休みしていた海通いが再開し、あまりに唐突にしかも頻繁に聞くようになり、私たちは「これから保育園だから、また今度ね」というような返事をすることばかりで、週末にしか海に行かないことに少し罪悪感を覚えるほどだ。
私たちが住んでいる賃貸マンションから海は徒歩4分。
夏は約一ケ月半ほど小さな海の家が開き海水浴場となるこの県民ビーチで、本格的な清掃は海開きの前後に行われるだけ。そのため普段の砂浜は流れ着いたゴミのおかげで美しいとは言えないが、海水の透明度は高く、大きな波はなくいつも穏やか。釣りの人がいつもちらほらいるので、仮に一人で歩いていても誰もいなくて怖いということもあまりない。私たちには普段使いのビーチとして最高の場所。すぐ隣に立派な遊具のある公園もあるのだけれど、ついついのびのび自由に遊べる海に足が向いてしまう。
移住してすぐ息子を授かった私は、妊娠時から今に至るまで散歩と言えば裏の田んぼかこのビーチを歩いている。つまり息子はお腹にいた頃から寒い時期以外は週に一度は海に来ているということだ。今よりももっと小さいころの息子は波を怖がっていたし、久しぶりに来るとやっぱり波打ち際まで行くのは嫌がっていたけれど、海散歩シーズンに入って3度目にはもう「うみ、いきたい?」と言うようになっていた。どうやら2歳になってもう砂浜で遊ぶ楽しさをはっきり認知したようだ。
GWの最中である今日も家族3人で行きつけの喫茶店でモーニングをし、その帰りに腹ごなしも兼ねてふらっと海に散歩に行った。近くでは久しぶりの海に小学生の男の子たちが超ハイテンションで騒いでいた。そんななか、息子といえば裸足で砂浜を歩きヒトデを見つけて喜んだり、壊れたおもちゃのバットに出会い、宝物を見つけたかのように大事にしたり、拾った小枝を砂浜に刺して誕生日ケーキに見立てたり。忙しいときは動画を見せてその場をしのぐことも全然ありとしている我が家だけれど、砂浜に落ちているあれやこれやを自分なりにアレンジして空想しながら夢中に遊ぶその姿を見ていると、やっぱりこういう時間って必要だよなと再認識させられる。
息子と一緒に遊びまわり砂になれた素足を靴下に戻して歩いたときの、足の裏一面に広がる何ともいえない心地よさを噛みしめつつ、「今年は去年よりできるだけたくさん、海で息子と一緒に遊ぼう」と心に誓った。