移住者の声
山下勉・山下恵子

「くらしに馬を…」山下夫妻の新たな挑戦

職業:交流牧場「SHARE HORSE ISLAND」運営 移住年:2013年(恵子さん2014年) 前住所:大阪府 現住所:洲本市

かつての馬産地・淡路島で
馬と暮らす魅力を伝える

「“くらしに馬を”というコンセプトで、シェアホースアイランドと名付けました」

農耕馬の「風月」とサラブレッドの「アネロワ」、そして二人の娘さんと暮らす山下夫妻は、かつて馬産地だった淡路島で、馬と過ごせる交流牧場を運営しています。

「いきなり馬を飼うのは難しいので、ここで触れ合ってもらい、馬がいる暮らしのメリットや癒しを感じてもらえる場作りをしています」

シェアホースアイランドでは従来の乗馬や農耕馬としての在り方を越えて、馬と寝泊りをする「馬合宿」や、馬と里山を切り開いてつくる「秘密基地づくり」など、新しい共生モデルを展開しています。

そんな馬好きのオーナー・勉さんが淡路島に移住したのは、2013年の春。岡山で棚田の再生事業の手伝いをしていたところへ、視察に訪れた洲本市職員との出会いがきっかけでした。

「最初は海と山が近くにある淡路島の環境が、とても魅力的に映りました。温暖で日照時間も長く、関西や四国との往来も多いせいか、人の気質もオープンな気がしました。僕自身も関西人なので、馴染みやすさがありました」

競走馬のトレーニングセンターや、ホースセラピー。乗馬施設など、昔から馬と触れ合える環境が充実している淡路島。

“いつか自分も、馬と事業を起こしたい…”

洲本市の地域おこし協力隊として農政事業の一端を担うかたわら、勉さんの起業に向けての準備がはじまりました。

それから一年後、婚約者の恵子さんが尼崎から移住。晴れて二人は、淡路島で夫婦になりました。

「昔から転勤族だった主人とは違って、わたしは尼崎から出たことがありませんでした。でも、主人が先に来てくれていたおかげで、淡路島の生活にもすぐ馴染むことができました。昔から子育てをするなら、工業地帯の尼崎よりも“環境の良いところでしたい”と思っていたので、山や海があって、こんなにも自然と触れ合える理想の環境に出会えて本当に良かったです」

勉さんの卒隊後、二人はいよいよ「SHARE HORSE ISLAND」を設立。以来、馬と過ごす価値を見出し、その魅力を発信しています。

 

観光牧場から交流牧場へ
コロナ禍で見えた、新たな可能性

「僕が最初に風月と出会ったのは、協力隊の任期が終わりに近づいていたころ。当時この子は、高知県にある農業高校の馬術部で飼われていました。でも、農耕馬の風月は馬術には向いていなくて、行き場を失っていたんです」

事情を知った勉さんは行き場を無くした風月を引き取り、風月の個性が生きる道を模索。それがシェアホースアイランドの原点となり、現在の触れ合いの場へと進展。淡路島の環境とそこで暮らす馬との触れ合いはたくさんのお客さんに喜ばれ、サラブレッドのアネロワも加わると、シェアホースアイランドは益々にぎやかになっていきました。

2018年からは活動の場を広げ、ビーチクリーンを開始。ゴミを運搬し、参加者も遊べる「ホースボード(馬ゾリ)」は馬の存在価値が見直される大きなきっかけになりました。

しかし2020年に入り、新型コロナウイルスの発生と感染拡大により状況は一変。

“淡路島に来れなくても、風月とアネロワと触れ合うことはできないだろうか…?”

そこで試しに取り入れたのが、牧場のオンライン配信でした。風月が牧草を食べている姿や、アネロワが洗われている姿などを配信すると、その変わらない二頭の姿が、自粛生活で鬱屈する都会の人たちの癒しになっていることを実感します。

「いままでは観光牧場として実際に馬と触れ合うことにこだわってきたけど、オンライン配信をきっかけに直接会えなくても暮らしに馬を取り入れられることが分かりました」

以来、勉さんは“オンライン牧場”としての価値や位置づけを生かし、馬ともっと気軽に関わり合える“交流牧場”を目指しています。

そしてこの夏、その第一歩として取り組んだクラウドファンディングは目標金額を大きく超え、見事に達成。

オンライン牧場の普及と、馬と里山を切り開いてつくる「秘密基地づくり」に向け、勉さんの想いに賛同した多くの仲間たちと新たな挑戦がはじまりました。

 

地域理解と強い結びつきで
叶えられた理想の生活

淡路島へ移住して7年。山下さんはこれまでを“地域の理解や仲間たちの協力のおかげ”と振り返ります。

「近所の顔が見えにくい希薄な地域関係の都会とは違って、淡路島は地域の結びつきが強いから、子供の成長にとってもその影響はすごく大きいと思います」

その地域性の高さから、淡路島ではいまもさまざまな地域行事が行われています。

「僕たちが暮らす地域では、毎月二十日に“二十日講(はつかこう)”と呼ばれる地域集会があります。隣保(りんぽ: 隣近所の人々が助け合うことを目的とした組織)が持ちまわりで家に集って、連絡事項を共有しています。みんなでお経を唱えたり、お茶やお菓子をいただきながらお喋りをする時間もあるので2~3時間はかかりますが、淡路島に身寄りのいない僕たちにとっては、地域とのつながりを持てる貴重な機会です。これまで馴染みのなかった読経も、土地を守ってきた御先祖様に感謝するとても大切な習慣だと思うし、唱えている言葉の意味は分からなくても、みんなと唱える一体感に、地域の一員に慣れた喜びを感じています」

現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止していますが、月に一度、班長さんが連絡にまわられているようです。

「きっとこの近い距離感が嫌で田舎を出ていく人もいるんだろうけど、僕らはその距離感が心地良いんです」

近所には“淡路島のばあば”と頼れる存在もでき、子供たちも元気いっぱいに生活している様子。田舎暮らしで自然に体力もつき、虫にも強いのだとか。

「身寄りがいなくても、子育ては周りのサポートを受けたり近所の子育てセンターをうまく活用しています。工夫次第でいくらでも理想の生活に近づけることはできるから、移住もあまり構えずに、広い気持ちで来たら良いと思います。何事も失敗前提で飛び込んでみることが大事だと思うので、最初は関係性作りからはじめて、長い目で自分の住みやすい場所を見つけていってください」

これまで感謝を忘れず、地域と共に進んできた山下夫妻。想いを形にしていく、力強さが伝わる取材でした。

今後、「馬」が淡路島の主要コンテンツになる日もそう遠くないかも…?

シェアホースアイランドのこれからに注目です!

SHARE HORSE ISLAND

洲本市五色町都志

Webサイト:http://share-horse.com/ (※年内リニューアル予定)

取材日:2020年09月02日

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