“夢を叶えるなら、いまがチャンス…!”
8年間の二拠点生活を経て、淡路島へ
当時、神戸で会社員をしていた徳重さんが、淡路島と深い関りを持つようになったのは、2009年に淡路島アートセンターが開催したアートフェスティバルへの参加がきっかけでした。そこで、島の自然や食の豊かさ、島の人たちの魅力を深く感じた徳重さんは、2011年から新たに地域の雇用創出プロジェクトとしてスタートした「淡路島はたらくカタチ研究島」へ参加し、さまざまな企画の運営に携わるように。
2014年からは、裁縫が得意な島のお母さんたちと一緒にカバンや小物などを作り、イベント出店をするようになり、平日は神戸の会社で仕事、休日は淡路島で活動するという二拠点生活のライフワークが確立していきました。
「最初は仕事がきっかけで通っていたけど、島で過ごす時間が増えていくにつれて、都会にはない季節の遊びを覚えるようになりました。淡路島は自然も食も豊かなので、都会より季節を感じる機会も多い。冬には味噌を作ったり、お正月には稲穂でお正月飾りを作ってみたり…島の人たちには、季節ごとの楽しみ方をたくさん教えてもらいました。そのころから“季節の移ろいを楽しめる暮らしって、良いなぁ…”と、淡路島での生活に興味を持つようになりました」
そんな徳重さんに転機が訪れたのは、2018年のころ。二拠点生活もだいぶ板につき、どこに身を置いても仕事ができることを実感した徳重さんは、かねてからの夢だった、観光業の道へ進む決意をします。
(シマトワークス代表・富田さんと)
「ずっと観光の仕事に憧れがあり、海外のお客さんをアテンドする仕事がしたいと思っていました。やるなら30代後半のいまが最後のチャンスだと思ったし、当時はまだ2020年に東京オリンピックが開催されると思っていたので、なおさら“準備するならいまや!”と思ったんですよね(笑)神戸に拠点を置く選択もあったけど、暮らしの豊かさを教えてくれた淡路島で、今度は私がその魅力を伝えていきたいと思って、正式に移住することを決めました」
そうして2019年4月に会社を退職し、以前より交流のあった富田祐介さんが代表を務める㈱シマトワークスで共に観光の事業を展開するために転職。さらに洲本市の商店街に民家を借り、これまでのモノづくりも生かせる拠点として、2020年初秋には「PURARE:」という布雑貨屋を1階スペースにオープンしました。
淡路島は、暮らしを整えてくれる島
平日はシマトワークス、土日はPURARE:の営業と、移住後もパワフルな生活を送る徳重さんですが、その姿は充実感に満ちていました。
「8年の間に、いろいろな友人と出会えたおかげで、移住することに対して不安はありませんでした。支出や収入の変化などもありますが、いまは自分への投資の時期だと考えています。逆に淡路島に来てからは、散財が減ったので、貯蓄できる金額も都会にいたころとそんなに変わらない気がします。人って、与えられた環境に対して自然と順応していけるものだと思うけど、淡路島は、そういう意味でも暮らしを整えてくれる島だと感じました」
それでも移住当初は、“商店街の一角に、住居と店を兼ねることに受け入れてもらえるかどうか多少不安はありました”と話す徳重さんですが、それもすぐに慣れていったそうです。
「最初はご近所付き合いが大切だと思って、誰かが訪ねてきたら早朝や夜中でも玄関を開けるようにしていたけど、いまは無理せず、出られないときは正直に“いま出れませーん!”と言えるようにもなりました。お互いに悪気がないことも分かっているし、理解し合えるいい関係性になってきたと思いますね。“商店街は住むには大変そう”というイメージを持つ人もいるかもしれないけど、いろいろな食べ物屋さんや愉快なご近所さんに囲まれて、むしろ毎日、美味しく楽しく生活できます」
そんな、洲本の街中で暮らす徳重さんの楽しみは、喫茶店や飲み屋での触れ合い。
「淡路島は喫茶文化が栄えているので、人との距離がとても心地良いんです。飲み屋にも多世代の顔なじみが集まるので面白いです。淡路島は電車がないから“終電”もなく、いつまでも飲めてしまうのが怖いところですが…(笑)」
顔が広い徳重さんの周りには「しげちゃん、しげちゃん!」と、いつも多くの人の笑顔で溢れていました。
夢は日本各地の拠点を繋ぐこと
自分が幸せと感じたものを、体験してもらいたい
5月7日、㈱シマトワークスの新たな拠点としてオープンした「Workation Hub 紺屋町」。古民家を改装し、会員制のワーケーション・コワーキングスペースの提供を中心に、今後は島での起業や事業の拡大支援、人材紹介やマッチングなどのコミュニティーサービスの展開を予定しています。
「拠点の構想自体は、2~3年前からありました。以前から企業研修や、働き方の実証実験(淡路島の自然の中で働き方を見直す合宿など)はしていたけど、“ワーケーション”という言葉はいまみたいに浸透してなかったんですよね。コロナの影響を受けて“リモートワーク”や“ワーケーション”という働き方の多様化が進んで、興味を持ってくださる方が増えてきました」
実際に、移住相談でも急増しているワーケーション需要。働き方が見直されている昨今、各地方で力を入れている取り組みでもあります。
「いま、コロナ禍でどこでも働けることが分かってきて、“これからみんな、どこでどんな暮らしをしていくんだろう?”って、楽しみでもあります。紺屋町ではリラックスして仕事をしてもらったり、淡路島の美味しいものを食べてもらったり、私が二拠点生活で“幸せ”と感じたことを体験してもらいたいですね」
(シマトワークスの仲間たちと 左から徳重さん・富田さん・玉井さん)
「それとこれからは、他の土地土地にも同じようなハブがあって、“この人に紹介してもらったらいいよ”と言えるようなチームができたらいいなと思うんです。そこで、観光という形だけでなく、一定期間働いてみたいという人たちも繋げられるような拠点が全国にできたらいいなと思います。移住もそうですよね。住む場所って大事なので、遊びながら、飲みながら、人と出会う中で決めていけたらいいと思うんです。私たちシマトワークスのメンバーも、それぞれの繋がりや情報を持っているので、何かあればいつでも相談してください。困ったときに頼れる人を作っておくと、きっと安心感に繋がると思います」
“わくわくする明日をこの島から”—
シマトワークスの企業コンセプトのように、これからは新しい暮らしや楽しさを追求する移住者が、増えてくるのかもしれません。
10年目の徳重さんの活躍と、シマトワークスの今後の展開がとても楽しみです。
取材日:2021年04月29日