梅雨の晴れ間がのぞいた取材日。
島で子育てを楽しむ夫婦を訪ねて、待ち合わせ場所のSBRICKへ向かいました。
昨年誕生した、愛娘の翠依(すい)ちゃんに優しい眼差しを向けるのが、2021年に島根県隠岐の島町から移住してきた土中夫妻です。
移住前、当相談窓口にも来られていたお二人。当時はまだ籍を入れておらず、達矢さんは家業であるお米屋に務め、杏美さんは隠岐の島町の地域おこし協力隊を退任したところでした。それから籍を入れた二人は、ネット情報を元に物件を探し、2021年10月、洲本市へと移住してきました。
「1年以内にここから出たい…」
コロナ禍に訪れた、夫婦の選択
移住のきっかけは、新型コロナウイルスの流行。杏美さんが協力隊を卒業するころに流行り出し、退任後の夢であった『ヨガやアーユルヴェーダを取り入れた民泊の経営』が、困難な状況に陥ります。
「これからどうしよう…と、思いました。ここ(隠岐の島町)で出来ることが分からなくなってしまって、“一年以内にここから出たいです”と、夫に相談したことがはじまりでした」
また、家業のお米屋に務めてきた達矢さんにとっても、移住は大きな決断でした。
「世の中がコロナで一変したこともあって、妻から相談を受けたときは、自分自身も変化のタイミングなのかなと感じました」
家業の跡を継ぐか、新たな進路へ進むか…。四人兄弟の長男であり、達矢さん以外のご兄弟はすでに島を離れていたため、ご両親に移住を切り出すのは“とても緊張した”と振り返ります。
一方、杏美さんも一人で島を離れることも考えたそうですが、最終的には達矢さんのご両親の応援があり、夫婦二人での移住が実現しました。
現在、達矢さんはリモートで事務作業を担い、繁忙期の秋には必ず実家へ手伝いに帰られるそうで、「いまの時代に沿った働き方ができるようになった」と、新たな仕事の在り方を築き、移住を前向きに捉えている様子が伺えました。
島から島へ。
品薄の中で見つけた、賃貸物件
ネットで情報収集する中、移住先の候補として見つけた淡路島。隠岐の島町や東京へのアクセスも良いことから、“ちょうどいい”と感じたそうです。
しかしコロナ禍で移住ブームが加速していた淡路島では、物件の品薄状態が続き、土中夫妻は連日、不動産サイトに張り付く日々が続きます。
「わたしたちは“古民家がいい”とか“海の近くに暮らしたい”とか、そういうこだわりは特になかったので、比較的探しやすかったかもしれません。最終的に、2軒の物件を内覧させてもらいましたが、“内覧すらできずにいるお客さんもいるから、2軒も内覧できるなんてラッキーですよ”と、営業担当者から言われました」
そんな物件探しの努力が実り、現在は家族三人で、洲本市内の賃貸住宅に暮らしています。
クリエイティブな刺激に溢れた、淡路島での暮らし
東京出身の杏美さんは、移住をするなら“ほどよく都会的な場所”を求めていたそう。
「“スーパーやドラッグストアもないようなところには住めないだろう”と思って、最初に隠岐の島町を選びましたが、協力隊をしていく中で、わたしが求めていた都会的な要素は、生活環境面だけではなく、人から得る“クリエイティブな刺激”も大事だったことに気付きました」
自然が美しい観光スポットが多数存在し、最近では島根県版の「街の幸福度ランキング」でも1位を獲得した隠岐の島町。しかし、結婚やコロナをきっかけに、土中夫妻の暮らしに求める価値観は変わっていきました。
「隠岐の島町もいいところだけど、刺激の面では少し物足りないところがありました。隠岐の島町は、淡路島ほどイベント事や個人経営のお店・企業は多くないので、そういうクリエイティブなものに気軽に触れられる淡路島の生活は、とても楽しいです。淡路島は、みんなで応援し合いながら、それぞれの個性を発揮しているステキな方が多いですよね」
毎月開催される「島の食卓」や「ソダテテマーケット」にも“よく遊びに行く”と話す土中夫妻。取材先に利用させてもらったSBRICKもヘビーユーザーだそうで、“淡路島に来てクリエイティブな刺激は満たされました”と、溢れ出るその笑顔が物語っていました。
よりどころの多い、子育て環境
移住後ほどなくして、第一子を授かった杏美さん。里帰り出産を経て、夫婦二人きりでの淡路島での子育てについて、こう話します。
「在宅ワークの夫と、二人で協力し合いながら子育てができているので、特に不安事はありません。それでも何か困ったときは一時保育を利用したり、シッターさんに来てもらうことができているので、助かっています」
最近では、シッターやベビーマッサージを提供する講師、助産院が開催する妊産婦向けのイベント行事などの充実により、子育てのしやすさが、格段に上がっています。
「東京で子育てをしている友人は、“ベビーマッサージの予約がなかなか取れない”と話していたので、その点、淡路島では自宅出張までしてくれる環境にあって、とても恵まれているなと感じます」
他にも、支援センター(児童館)や市立図書館、イングランドの丘など、家族で楽しめる場所をよく利用されているそうです。
これからも身軽に、そして軽やかに…
淡路島に移住して1年半。子育てもはじまり、ライフスタイルが大きく変化した土中夫妻ですが、「まだまだ淡路島を堪能しきれていない」と語る一方で、こんな本音も教えてくれました。
「正直、これからずっと淡路島にいるかどうかは分かりません。娘が成長していく中で、やりたいことが出てくるだろうし、わたしたちも教育面について考えることがあるかもしれない。そういうときのために、わたしたち夫婦は、いつでも身軽に動けるようでありたいと考えています」
-“移住は引っ越し”-
そう捉える移住者もいるように、人生にとって、移住は大きなことのようで、案外、その通過点にすぎないのかもしれません。
そして移住が気軽にできるいまの世の中だからこそ、これからは土中夫妻のような生き方、移住者が益々増えていくのだろうと、そんなことを考えさせられる取材でした。
取材日:2023年06月09日