淡路島で一番の観光地と言えば、福良ではないでしょうか。福良といえば「鳴門のうずしお」を見ることができる観光船が出ている福良港、淡路人形浄瑠璃の演目が鑑賞できる淡路人形座など、観光スポットが盛りだくさんな町です。福良港周辺は、観光客向けのお店やホテルがたくさん集まっており、土日ともなれば観光客でいっぱいになります。
そんな福良港周辺から、北西に一本入ると、昭和にタイムスリップしたような商店街があります。通りには観光客向けのお店はあまりなく、普段使いのお店がポツポツと営業している感じで、ほとんどのお店はシャッターを閉めたまま。そんな商店街エリアに移住者の女性が「おにぎり屋さん」をオープンしたとの情報を聞きつけ、今回はなぜ?あえてこのエリアにお店を開くことになったのか?を取材して来ました。
仕事は好き、だけど忙し過ぎた
「仕事が忙し過ぎて辞めようと思っていた矢先、コロナ禍になって仕事が落ち着いたんです。そのときに思い切って3ヶ月休みをとって淡路島に遊びに来ました!」
そう語るのは、淡路島に完全移住して約2年経つ山藤さん。島に来る前は東京でワードローブ(舞台衣装を役者さんに着せたり、衣装のメンテナンスをしたりする職種)という舞台関係の仕事をしていました。
山藤さんは幼い頃から、ディズニーのパレードやアイドルが大好きでした。その流れで舞台衣装の世界に興味を持ち、衣装について学べる大学に進学。ですが、大学では思ったような現場経験が積めないことに焦ります。そこで、在学中から舞台衣装のスタイリストのところにバイトに行くなどして、現場経験を重ねていきました。その経験を通じ自分は、自ら生み出すことより、具体的な指示に沿って何かを形にしていくことの方が好きだと気づく。その結果、衣装デザインではなく、ワードローブの道に進もうと思った。
卒業後はそのままフリーランスのワードローブとして独立し、順風満帆な日々を送っていた山藤さん。仕事は楽しかったけど、多忙すぎた。そして、だんだんと体にも負担がかかるようになってきた2019年1月ごろ、「この仕事は年内で辞めよう!」と決意し、当時すでに淡路島移住していた友人と身近な先輩にだけ、このことを告げました。
その後、世の中はコロナ禍となり、自然と舞台の仕事自体が減少。辞めようと思っていたけれど、やっぱりワードローブの仕事頑張れそうかなと思い直します。そんな時、淡路島の友人から、
「自分の家に間借りしている子が地元に帰ることになったから、部屋空くけど遊びに来る?」
とお誘いを受けます。
せっかく仕事も落ち着いているし、淡路島に行きたい熱の高まっていた山藤さんは仕事のスケジュールを調整し、3ヶ月の休みを取得。友人の住んでいる福良の一軒家を間借りし、期間限定の淡路島ライフをスタートさせました。期間限定のはずが、たまたまランチした地元(福良)の人が経営するメリッサ・サカベというカフェでお手伝いをすることになったり、玉ねぎ農家さんのところでバイトを始めたり、カッサ(天然石や牛の角からできたプレートで肌を擦り、血液やリンパの流れを良くする美容法)のサロンで働いたりと、どんどん淡路島に根を張っていきます。
3ヶ月のお休みが終わっても淡路島に居たいと思うようになっていた山藤さんは、淡路島に拠点を残したまま、通いで東京の仕事に行くようになります。その後、関東との二拠点生活を経て、2022年8月に淡路島への完全移住を果たしました。
思い立ったらすぐ行動!
完全移住してしばらく経ったある日、勤めていたカッササロンのオーナーと、「福良CAPというチャレンジモールのテナントが空くから、そこでおにぎり屋をやってみたいね!」という話になりました。その後、オーナーは他の事業で忙しくなり、この話は消えかけるか。。。のように見えたのだが、山藤さんの中では、じわりじわりと「おにぎり熱」が盛り上がっていた。そこで、一人でもいいからやってみよう!と決意し、福良でいい物件がないか探してみることに。
さっそく福良の物件に詳しい移住者友達に相談してみると、「借りている長屋の土間部分を持て余している友達がいるから、その家の大家さんを紹介してあげるよ。そこでやればいいんじゃないか?」と提案を受け、大家さんを紹介してもらうことになる。そして、大家さんに「おにぎり屋」をやりたいこと告げると、「おにぎり屋にぴったりの物件が他にある」と別物件を提案され、トントン拍子で物件が決まったのは2023年12月のこと。
自分の名前が山藤ということもあり、なんとか3月10日(サントー)までにオープンしたいと思っていた山藤さん。次はお店作りを手伝ってくれそうな工務店探しを始めます。ですが、はじめに相談に行った工務店には、予算と工期のなさを理由に断られてしまいます。そこでダメ元で福良の長浜工務店さんに相談してみると、施主がDIYすることで予算を抑えることができるし、工期的にも大丈夫!ということでお仕事を引き受けてもらえることになりました。
DIYでお店を作る傍ら、おにぎりレシピ開発など、開店に向けての準備を本格的にスタートさせた山藤さん。DIYで作業していると、近所の方が声をかけてくれたりすることも多く、自分の本気が伝わっている感じがしたそう。さらに工期中は店の前に工務店の車が横付けすることも多かったが、地元の工務店の車だったからかご近所さんには、「ああ、長浜さんとこで頼んでるんやなー、頑張ってなー!」と嫌な顔ひとつされなかった。このとき、地元の工務店にお願いして本当に良かったなと思ったそう。
そして無事『サントーの日』にお店はオープンしたのでした!
福良の人と移住者が交わる場所を
ー福良の町の印象と、どうやって地域に馴染んでいったのか教えてくれますか?
山藤さん:福良の人は喋り方がキツく怖い感じがしますが、実は親切で裏表のない人が多い気がする。そんなところが福良の人の魅力です。地元の人とはメリッサ・サカベで出会い、知り合いになることが多い気がします。もし福良が気に入ったという人がいたら、メリッサ・サカべに行くことをおすすめしますね! 以前家が見つからないと言っていた人がメリッサ・サカべに一日中いたら家が見つかった!って話を聞いたことがあるくらいにあそこは地域交流の場になっていると思う。
そんな山藤さん、自分のお店もゆくゆくは移住者と地元の人が交流できる場に育てていけたらと考えているそうです。その第一弾として先日の夜は、友達のブルワリーから仕入れたクラフトビールと簡単なアテを提供する居酒屋営業をしてみたようで、結果は大成功! 知らない人同士が自然と交流し合ういい雰囲気が作れた模様。実は二階にも空いているスペースがあるので、今後はそのスペースを使って、ヨガや簡単なワークショップなどのイベントができないかと構想中とのこと。
お店での取材中、定休日にも関わらず近所の人が二、三人と尋ねて来て、「今日は店やっとるんか?」「今日はなんしょるん、秘密の会議か?」などと気さくに声かけをしていってくれて、山藤さんは本当に地域の方に愛されている方なんだなあと感じました。静かな商店街に現れた小さなおむすび屋さん。きっとここから色々な縁が結ばれていくのだろうな、そんな予感がした取材でした(FIN)
淡路島おむすび結結(ゆゆ)
兵庫県南あわじ市福良甲 1323
取材日:2024年05月16日