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「餅まき」という名のサバイバル

淡路島で暮らすようになって、人生で初めて経験したことの一つが「ふなおろし(もしくは進水式)」だ。

淡路島は造船所が複数ある。うちの近所にも一つあり、常に数億円もする船をつくっている(なんと景気の良い話だ)。ここでは一年に2度くらい「進水式」がある。

そして「ふなおろし」と呼ばれるのは、漁師さんが新しい船をお披露目する機会だ。全国と変わらず淡路島も漁師さんは減少の傾向にあり、近年この「ふなおろし」はなかなか見られないという状況の中、運よく参加させてもらったことがある。

どちらにせよ、とてもおめでたいイベントである。
そしてこのイベントにつきものなのは「餅まき」という壮絶なサバイバルシーンだ。

「餅まき」という名の通り、船に乗った主催者側から袋に入った餅がまかれる。そして餅以外もまかれる。場合によってさまざまだが、だいたいは駄菓子やスナック菓子の類だ。これが一斉に船の上から放り投げられる。そして船の周りに集まった人々がそれを懸命にキャッチしにいくのだ。これは見ごたえがある。

初めて参加したとき、私は妊婦だった。誘ってくれた友達たちが「離れておいた方がいい」とアドバイスをくれた。そして「そのへんで」と言われた場所はかなり距離があり、私は「え、こんなに遠く?」と思ったのを覚えている。でも餅まきが始まり、その理由はすぐに明らかになった。

始まったとたん、わぁっと一気にその場の熱量が上がり、その場にいるたくさんの人が、自分の立っている場所からかなり離れたところまで駆けたりジャンプしたり。さっきまで腰を曲げて静かに立っていたおばあちゃんまでアグレッシブに大活躍。転んでは立ちあがり何度もいくつも取りに行く。

そもそも、それらお祝いの品を投げる距離がすごい。もちろんすぐ近くにも投げてくれるのだが、かなり離れている私にも取れるように投げてくれる。集まってくれた人がいるところなら遠くとも大きな円を描き飛んでくるのだ。それを見てはみんな情熱的にキャッチしに動くので、離れすぎだと感じた私の場所でも、品が届くのをみて人が押し寄せ、私はさらに避難することになった。これも一種の祭りなのだ。

近所の造船所での進水式で餅まきがあるときはまた違った興奮がある。毎回近所の学校の吹奏楽部の生演奏があり、そのあとに餅まきが始まる。かなりの大きさの船の上からまかれるので、量も増えるのだが、まかれる品たちの重力がぐっと増すのだ。スピードも速くなり、そのせいで品を取り損ねることも増える。あえて落ちたのを狙う選択をする人もいる。近くに飛んできたのをすべてキャッチできるように上達したころにはお開きだったりするが、それが楽しかったりする。友人の子どもが特大のお餅をゲット。これはとても縁起がいい話で、これを取った人には次の造船がやってくるとかこないとか… ブーケトスみたいだ。

先日も、友人と餅まきの話になって「餅は餅でも、当日の朝の作り立てと前日仕込みの場合で固さが違う=ぶつかったときの痛さが違うよね」なんてことを話して笑った。こういう老若男女問わず一堂に会してそれぞれが楽しめるイベントは、やはり人間の暮らしにとても重要なんじゃないかと感じている。

この記事を書いた人

時友真理子

時友真理子

東京生まれ。大学卒業後、(株)リクルートで営業職、(株)IDOM(旧(株)ガリバーインターナショナル)でマーケティング業務に携わる。2016年に夫婦で縁もゆかりもなかった淡路島へ移住し、島の食の通販&編集ライター業で起業。移住直後に第一子を授かり、淡路島でのんびり子育てを満喫中。

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